チキンとミンチ

「粗挽きハンバーグとドリンクバーのセットで」
「私もドリンクバー。チキンの香草焼きとセットでお願いします」
 ウェイトレスが行ってしまうと、僕は席を立った。
 ドリンクバーに行きがてら店内を見渡すと、さすが『馬車の通路』というチェーン名だけあって、大正時代の色が濃く現れている。やけに高い天井と行き交う梁、ノスタルジックな色合いが印象的だ。ウェイトレスも袴姿で文明開化を演出している。
「何見てんの。あんたああいうのが好きなん? そういや卒業式もわざわざ見に行ってたもんねえ」愛子が茶化すように言う。
「な、あれは先輩が来いって言ったから行っただけじゃん。愛子だって来てたし」
 愛子はふうんと納得した素振りを見せる。明らかに誤解してるように見える。
「そういやチキンの香草焼きでさ、香草って何入ってるんだろ」席に戻り、話題を逸らそうと試みる。
「バジルとかパセリじゃん? あとレモン汁かけたり」
「レモンは香草と違うんじゃないかな」
「うっさい。香り付けだから香草みたいなもんだっての」
「大体ドリンクバーで緑茶ってのもなあ」
「あんたのコーラよりましよ」
「コーラは基本だろ」
 そんな事を言い合っていたらさっきのウェイトレスが料理を運んで来て、去り際に意味ありげな微笑を浮かべて行った。ラブラブですか、僕達?
「ほらまた見た」
 愛子が勝ち誇ったように言う。だから違うんだって。でも反論するのも面倒だったので、とにかくハンバーグに手をつけることにした。鉄板が立てるパチパチという破裂音が食欲をそそる。
「はい、弘」
「何?」
 見ると、愛子はフォークに刺した香草焼きを僕の口元に持ってこようとしている。
「マジ?」
 笑顔で頷く愛子。諦めてあーんと口に運んでもらう。おいしい。確かにレモンはいい香り付けだ。
「このくらい見せてやれば満足でしょ」
 その言葉の意味が分からずきょとんとしていると、愛子は空になったフォークで待機場所に戻ったウェイトレスを差した。彼女はこちらをチラリと見て、口元をメニューで隠しつつ同僚と視線を交わしている。笑っているんだろう。
 ああそうか。
「別にあんたがウェイトレスに見とれてるとは思ってません。分かったら、ほら」
 愛子が口を開けてこっちに突き出すので、慌ててハンバーグを切り分けた。



後書き
『作家でごはん!鍛錬場』を利用した三語即興文という企画に投稿したショートショート。エンタメ系とお褒めの言葉をいただきましたがエンタメになっているのかしら。


最後まで読んでくれてありがとう