ハーフアスリープ

 大晦日は電車が休みなく動いているので、特別な日なんだと思う。夜中は三十分に一本程度だけど、コートのポケットに手を突っ込んで誰もいない駅のホームにいるのは楽しいし、移動式灯台みたくやって来る電車に乗り込む気持ちは格別だ。
 友達に呼び出されてJRを経由、地下鉄に乗り換える。運悪く前の電車が行ってしまったところで、地下のホームは錆びた風の音と改札口を知らせる定期的なチャイムの音に満たされている。
 ベンチに座ろうとしたら、マフラーを巻いた女の子がガタガタ震えていた。同級生の乾さんだ。三メートル級のマフラーでロングヘアーごと顔をぐるぐる巻きにして、寒そうに船を漕いでいる。
 特別な日なので僕は何となく遠慮もなくして好きな子の隣に座る。寝子と名付けられ、すくすく育つよう願われた女の子は薄い胸を静かに上下させて、時折がくりと目を覚ます。そしてその折、僕の姿を視認する。
 草壁君。
 名前を呼ばれて少し嬉しくなる。おはよう、と返すと乾さんは少し恥ずかしげに俯く。あけましておめでとうじゃない、と訂正が入る。
 うん、おめでたい。
 僕は少し勇気を振り絞る。
 寝顔、見られたから。
 次の瞬間、ショルダータックルを喰らった。
 寝てないわ。半分だけよ。寝てないわ。
 そういうの、ハーフアスリープって言うんだよ。
 知らないわ。
 僕は頷いて、むき出しの手を掴んでポケットに引きずり込む。乾さんは驚いて、真っ赤な目を大きく見開いた。
 電車来たら起こすから、船漕いでなよ。
 怪訝な目つき。それが間もなく剣呑になる。
 頭突きされても文句言わないわよね。
 思い切りだろうか。分からないままに再度頷いた。
 じゃあいいわと、乾さんは、すねたように目をつむって、ハーフアスリープに戻る。電車が来るまで二十分以上あるトンネルの真中で、僕は何かが変わるのを感じている。


後書き
 テキスポさんの「一周年記念八百字小説バトル」に投稿した作品。題名はSchool of Seven Bellsの楽曲から頂きました。わざわざ名前を出したのは、次に書く話の土台を考えてのことでありまして、八百字には余計だったかと反省しています。


最後まで読んでくれてありがとう