スルーロビングウォーターズ

 少女はタオルを首に巻き付けて校門を乗り越える。長髪がこちらに翻る。
 少年は制服が汚れないよう注意してフェンスの穴を潜り抜けると薮を払って校庭に入る。
 少女は鍵のかからない窓から校内に侵入し、スニーカーの上にビニール袋を被せる。
 少年は窓の内側に足跡を見つけるも素知らぬ顔をして針金で仮鍵を作る。密室が完成する。
 少女はビニール袋の立てる音も気にせず廊下を闊歩する。教室は四階にある。
 少年は一旦靴を脱いで下駄箱で上履きに履き替える。
 少女は階段を上がり切って忌々しげに自分の進んできた道を振り返る。タオルを首から外して顔の汗を拭く。タオルは黒地で白い髑髏が笑っている。
 少年は一階の水道で顔から首、腕に滲んだ汗を流す。肌は白。手拭いは使わず夏の暑さに任せることにする。
 少女は微かな水道の音から校内に人がいることを知る。多分生徒だと考え、先輩でないことを願う。鍵の開かない教室の扉を蹴飛ばして近くにあった花瓶ごと倒す。
 少年は上から聞こえる破壊音で大体の予想をつける。
 少女は下から反応がないことで見当をつける。
 少年は手袋をはめ、針金で理科準備室の扉と戸棚を開け必要な物を鞄に詰める。
 少女は机から忘れ物を取って一休み。何となく壊した扉と花瓶をどうしようか考える。
 少年は慎重を期して薬瓶の位置を整え、廊下に出ると手袋を外す。手は汗にまみれている。
 少女が無造作に開けた窓から入る風で汗を飛ばし長い階段を降り始めると少年は汗で汚れた手を洗ってから蛇口に水をかけて証拠隠滅し早くも滲み出した第二陣を振り払うように制服の袖で額を拭ってその間に少女は二階まで降りており少年の姿を見つけたのでせっかくだからと廊下を横断しビニール袋で少年の注意を引く。少年もそれに応じる。
 廊下の真ん中で二人はすれ違う。
 すれ違い、皮肉めいた目配せを交わす。


後書き
 テキスポさんの「第五回八百字小説バトル」に投稿した作品。題名はKettelの楽曲から頂きました。ビジュアル式の小説は読者に想像力を強要しますが、それくらいはさ、いいじゃん。


最後まで読んでくれてありがとう