ガンボールマシンウィークエンド

「弾幕薄いぞ男子ー」
「オラー校門突破ァ!!」
 女子高生達の気合いに満ちた雄叫びが校庭にこだまする。閑静な住宅街の真中に位置するやや古い鉄筋コンクリート造りの校舎にはあちこちに弾痕や凹みが見える。
 一年生は四十口径の反動に耐え切れず仰け反り、上級生は慣れた手つきで二丁のサブマシンガンを乱射し、或いは巨大なリボルバーの弾倉を片手で入れ替える。六発の薬莢が銃身から弾き出される度に響く乾いた音は、シャッターを切るように少女の笑顔を引き立てる。爽やかな日曜日の朝。
「明美はー?」
「体育館の屋上行ってる」
 三年生の間延びした声が行き来する。そこを狙って校舎からゴム弾の反撃が来るので二人は立ち木の後ろへ跳びすさる。
「先輩、本当にこれで赤点消えるんですか?」
「あー今更何言ってんの。向こうが反撃して来てんだから消えるに決まってんじゃん!!」
 疑わしげな様子の一年生は、しかし暴徒鎮圧の一撃を受けて校外に消え、追試が確定した。頭を抱えつつ、肩にかけたガトリング砲を回す先輩。隣では空手部のエースが徹甲弾を正拳で撃ち出している。戦局は生徒側有利といったところか。教師達にとっては苦々しいことに、制度が変わってから赤点を逃れるのではなく赤点をとってから逃れる道を選ぶ生徒は学期ごとに増している。
「由宇、山下目障りだから消して」
 由宇と呼ばれた女子は寡黙に頷き地対地ミサイルを屋上の数学教師に向けて放つ。
 校庭を挟んで弾丸が飛び交う中、体育館の屋上で狙撃銃を設置した明美が職員室に狙いをつけた。ショートカットにカチューシャという姿は狙撃兵の理想と言える。
「ここなら一発で仕留められるな」と一人ごち、デコイ役の校門戦線を脇目に照準器を覗く。十字の先には綺麗に禿げ上がった教頭の頭がある。
「イカ墨ソースぶっかけてやる」
 明美は目を細め、おもむろに引き金を絞った。


後書き
 テキスポさんの「第五回八百字小説バトル」で入賞した作品。大賞を狙っていたのですが。題名はYppahの楽曲から頂きました。そんなんばかりですな。評に「何が何だか分からない」と書かれていて、褒められているのかどうか未だによく分かっていません。『うる星やつら』なんかだったら普通の展開なのよ、これ。


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